本研究チームは、ヒト成人皮膚に由来する体細胞に、マウスと同じ4因子をレトロウイルスベクターで導入し、その後、ヒトES細胞の条件で培養しました。そして、形態や増殖能に加えて、遺伝子発現パターンもヒトES細胞と類似したヒトiPS細胞を樹立しました(図1)。ヒトiPS細胞は、神経、心筋、軟骨、脂肪細胞、腸管様内胚葉組織など、さまざまな細胞へと分化することができます(図2)。
ヒトの皮膚にある線維芽細胞をもとにしてES細胞のような多能性をもつ細胞を作る方法を確立したという報告です。人工多能性幹細胞はiPS細胞と呼ばれています。
再生医療において自分の細胞から臓器を培養することができれば最も良いわけですが、これには様々な細胞に分化することができる(多能性、万能性を持つ)細胞が必要となっていました。ES細胞は多能性を持つ細胞として知られていて再生医療分野で注目されています。実際にES細胞をどんな条件で培養するとどんな細胞に分化するのかという研究が盛んに行われています。
しかしながら作成に受精卵を必要とするため倫理的な問題が指摘されており、これがヒトに適用する際に大きなネックになっています。本報告のiPS細胞(induced Pluripotent Stem Cell)を用いることでこの倫理的な問題点を回避した再生医療が可能になるのではないかと期待されているというわけです。
本報告は昨年発表されたマウスのiPS細胞の樹立に関する研究(皮膚細胞から万能幹細胞の誘導に成功)をヒトに適用したもので、マウスでもヒトでも基本的な作り方は同じようです。この研究ではもとになる細胞として線維芽細胞という細胞を使っています。この細胞は皮膚に傷が付くとコラーゲンを生産して結合組織の修復をしてくれる細胞です。
この細胞はどんなに培養しても線維芽細胞にしかならないようになっているのですが、この細胞に初期化因子と呼んでいる4つの因子を導入すると、この細胞の分化に関する情報が初期化されて多能性を獲得する。つまりiPS細胞になるという話です。
この4つの因子はOct3/4,Sox2,c-Myc,Klf4と呼ばれていて、これらは以下のような機能があることがこれまでに知られていました。
- Oct3/4
- マウスES細胞の未分化能維持に重要な働きをしていることが知られている。未分化ES細胞ではOct3/4の発現量が調整されていて、分化しないようになっている。
- Sox2
- ES細胞の多能性維持に必須であることが知られている。Oct3/4と強く関係があることが示唆されている。
- c-Myc
- 典型的なガン遺伝子として知られている。普段は細胞の増殖をコントロールしているが、強く働き過ぎると細胞をガン化させてしまうことが知られている。アポトーシスと関係があることも知られている。
- Klf4
- 腫瘍抑制因子として機能する。皮膚や腸管のガンでは発症を防ぐように働くことが知られている。
最初の2つは細胞の多能性を持たせるために機能することが期待されますが、後半の2つはガン関連の遺伝子です。ちょっと意外ですが、ES細胞は自己複製をすることなど、ガン細胞と似たところがあることが知られているそうです。この4つの因子を導入することで分化プログラムを初期化することが可能になりました。
ではなぜこれらの因子を導入することで初期化されるのかという点が問題になりますが、これに関してはまだこれからの問題になっていると思います。そもそもES細胞がどのようにして多能性を持っているのか、未分化のまま培養できるのかについても厳密にわかっていません。
iPS細胞はマウスにおいてはES細胞とほとんど同じような振る舞いをするようにできることがわかっています。ヒトに関しても神経、心筋、軟骨、脂肪細胞、腸管様内胚葉組織に分化することが示されているようです。これからの再生医療への応用に期待したいですね。まだまだ実際に再生医療に使われるようになるにはだいぶん時間がかかりそうだけど。
むしろ細胞が持っている分化プログラムのシステムがどのように成り立っているのかに興味がわいてきますね。4つの因子の初期化メカニズムが解明されれば、プログラムを作り上げているメカニズムの解明に大きく前進するのではないかと思います。これからも目の離せない分野だとおもいます。
参考サイト
東京大学 医科学研究所 2005年開催 学友会セミナー
理研CDB - 科学ニュース Sox2が多能性維持に働くメカニズムを解明
がんに挑む (4)“先祖返り”で能力向上 : 幹細胞のいま
日経BP技術賞 医療・バイオ部門 京都大学再生医科学研究所
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