- 2005-08-07 (日) 4:44
- 医療
精神病の治療法として、30年前まで使われていたロボトミ-(lobotomy)を復活させることを考えてみてもよいのではないかという提言が、7月14日付けの医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に掲載された。
頭蓋骨を開いて前頭葉の一部を外科的に切断することで精神状態の改善を期待する治療方法であるロボトミーを復活させても良いのではないかという提案です。
ロボトミーという言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか? ロボトミーはlobotomy(lobo-:中胚葉、前頭葉などの“葉”、tomy:切断する)という言葉の合成語で、その名の通り脳の一部を外科的に傷つけて精神状態の改善を促す精神外科分野の手術の方法です。 ロボトミーという音と、脳というキーワードからロボット(robot)のように自由に操るための洗脳手術と捉えている人も多いかも知れませんが、全く関係ありません。
ロボトミーは1935年にポルトガルの医師エガス・モニスによって考案されました。 その後、アメリカで発展し第2次大戦後には世界的なブームを巻き起こしました。 考案者モニスはこの功績でノーベル賞を受賞しています。 重大な精神障害を持つ患者に対する最終的な治療方法として使われていたようですが、性格・感情の上での大きな変化が起こること、抗精神病薬が開発されたことが理由で1970年代以降は殆ど行われないものになったということです。
現在では、1975年に日本精神神経学会で「精神外科を否定する決議」が可決されて以降ロボトミーは行われていません。
さて、この報告では、この問題が多いと考えられるロボトミーを復権させても良いのではないかといっています。 記事から内容をまとめると、1) 過去のロボトミーによって実際に患者の10%についてはその症状を改善することに成功している。 2) 後遺症が残ったことがいることは事実だが、現代の脳科学の発展による知識の蓄積によって、より効果的なロボトミー手術を行える可能性がある。 3) 万策尽きて手の施しようのない患者に救いの手をさしのべる手段として、ロボトミーを今一度考えてはどうか。というものです。
しかし、この提案を僕自身は非常に疑問に感じます。 たしかに70年代とは比べものにならないくらい脳に対する知識は積み重ねられています。 それでもまだ「わからない」のが脳であって、世界中の科学者が脳の仕組みを知りたいと研究を積み重ねているという点。 少なくとも現代の脳科学の理解は、脳のある領域が行っている処理(たとえば言語中枢、数学的処理など)についてマッピングが行われている程度の解像度であり、外科手術を行えるほどの解像度ではないのではないのかと思います。
後遺症によって人格が失われてしまうことの重大さもあげられます。 ロボトミーによる後遺症は、楽天的で空虚な爽快感をいだく、生活態度に節度がなくなる、外界のできごとに対して無関心なるなど、いわば人間性を失うという致命的なものであり、当然それを改善する方法は解りません。 そもそもなぜこのようなことが起こるのかも曖昧にしか解らないはずです。 要するに成功した人と失敗した人の違いを、医学的に明確に説明することが出来ないでしょう。
以上の2点から、たとえ手の施しようのない患者にとっても行うべきではないと考えます。 もちろん知識がより発達し、それ相応の解像度で理解することが出来るようになれば、ひとつの選択肢として期待出来るとは思います。 それまでにどれだけの時間がかかるのか想像もつきませんが、今はまだ脳科学の発達をじっくりと待つ時期でしょう。
脳科学・精神医学に関してはずぶの素人です。 この記事に関する突っ込みなどありましたらぜひコメントをお願い致します。
参考URL:
精神外科 - Wikipedia
ロボトミー
ロボトミー
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Comments:10
- カワセミ 05-08-07 (日) 9:13
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自分も全くの素人ではありますが興味深いお話ですね
傷害事件を繰り返していた男性が、本人の同意なしに手術をされて
暴力衝動どころか生活意欲や感受性まで減衰してしまい、執刀医に復讐を企てた
という事件が日本でもあったそうです
研究自体は進めるにしても慎重であって欲しいと思います - mari 05-08-08 (月) 10:30
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お久しぶりです。
いくら脳に対する知識が増えたからと言って、
神経回路の切断によって人格を変化させることは、人として「どうなのよ。」と感じています。
私は記憶や感情といったものが、神経回路とその回路を作っている細胞の活動具合によるものと認識しています。
こういった回路や活動具合はトレーニングによって作られるものだと思うのですが、それならば、切断するよりトレーニングによってどうにかならないものなのかしら?と感じています。
(もちろん、そういう方法も調べられてはいると思いますが。。。)私も素人ですので、たいした意見はできないです。すみません。
- ふがわ 05-08-08 (月) 17:50
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問題はあるにせよ、仮にロボトミーが復活すると、逆に脳外科や
脳科学の急速な進歩が期待できそう。
「手の施しようの無い」の定義にもよるかもしれないけれど、
消極的賛成票を投じます。薬物による人格変化が「治療」と認められるなら、神経回路の切断で
それをやってはいけない理由は無いと思います。もちろん、薬物より不可逆性が強い、人格変化が激しいなどの「量的」
な差があるのでしょうけど、薬物で治療できないケースに対応できる
なら、やる意味はある、あるいは少なくとも検討する価値はあると思います。 - 田中山 05-08-08 (月) 21:09
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医師の立場として考えますに、治療法を感情で否定するのはよろしくないと思います。
NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINEは科学的に意味のある論文以外は掲載してもらえない「客観的に」権威のある雑誌であり、「ロボトミーは有効である可能性がある」というのは、個人の感情による意見ではないと考えられます。(当該論文は読んではおりませんが。)
治療の選択肢を他人の感情や倫理で否定するのではなく、選択肢を広く知らしめ、(脳死の際の臓器提供と同様に、その方が健康なうちから)自分でその治療法について選択できるような社会となることを望みます。
なお、判断能力を失った状態で他人が(近しい家族や後見人といえども)こういった侵襲的で不可逆的な治療を選択するのはよろしくないとも思います。 - うーん 05-08-09 (火) 0:30
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カワセミさんのコメントがどうしても根本的に矛盾を抱えているような気がしてならないのです・・・
復讐を企てる意欲が出たところを見るとその施術は失敗だったのでしょうね・・・。
いえ、ロボトミーに賛成しているわけではないんですけど。死刑同等手段としての施術ならば、復活を望む声があるのは当然だと思われます。
精神鑑定の結果無罪。しかしロボトミー手術を受けろ。みたいな。ロボトミーは責任能力のない人間の脳に直接手を加えて原因部分に責任を取らせるという、実は私刑的な意味合いが強かったのではないかと私は考えています。
ロボトミーとは、もともとが感情的に行われていた施術だったのであろうとしか私には思えないわけで。
刑的な要素におけるロボトミーは周囲をおそらく納得させるに足るものだったのではなかろうか。治療としての復活には大いに疑問がありますが、その有用性に関しては一考の余地はあるのかもしれません。
身の毛もよだつ施術ですけども。 - うーん 05-08-09 (火) 0:32
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カワセミさんのコメントがどうしても根本的に矛盾を抱えているような気がしてならないのです・・・
復讐を企てる意欲が出たところを見るとその施術は失敗だったのでしょうね・・・。
いえ、ロボトミーに賛成しているわけではないんですけど。死刑同等手段としての施術ならば、復活を望む声があるのは当然だと思われます。
精神鑑定の結果無罪。しかしロボトミー手術を受けろ。みたいな。ロボトミーは責任能力のない人間の脳に直接手を加えて原因部分に責任を取らせるという、実は私刑的な意味合いが強かったのではないかと私は考えています。
ロボトミーとは、もともとが感情的に行われていた施術だったのであろうとしか私には思えないわけで。
刑的な要素におけるロボトミーは周囲をおそらく納得させるに足るものだったのではなかろうか。治療としての復活には大いに疑問がありますが、その有用性に関しては一考の余地はあるのかもしれません。
身の毛もよだつ施術ですけども。 - ロボトミー殺人事件 05-08-09 (火) 17:51
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その事件については結構あちこちで解説されていますが下記のサイトなどいかがでしょうか。
「夕日」のくだりがとても印象的です。
http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/lobotomy.htm - カワセミ 05-08-09 (火) 22:19
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時を置いて改めて見ますと我が文章ながら確かにこれは…
治療と刑罰(と復讐?)について頭を冷やして考えてみます - とし 05-08-11 (木) 4:18
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皆さんの熱心な議論を拝見させて頂きました。
非常に有意義な意見を直接聞くことができて、この記事を書いて良かったと感じています。> カワセミさん。
世に言う「ロボトミー殺人事件」のことですね。
詳しいページをロボトミー殺人事件さんがフォローしてくださっています。この記事では意図的にこの事件について触れませんでした。
感情論で「ロボトミー=悪」といった先入観を持って頂きたくなかったためです。> mariさん
脳の活動はおっしゃるように神経細胞の結合、ネットワークの生成によって成り立っているものだと考えられますね。
しかし、手の施しようがないという条件を「トレーニングでも改善の余地が見られない状態」と定義すれば、ロボトミーでもしそれが治る可能性があるのであれば実施する必要もあるといえるのではないでしょうか?> ふがわさん
おっしゃるとおりですね。
この論文に関しても、田中山さんがおっしゃっているように科学的な根拠があって、再考の価値があると評価されているのでしょうから、近いうちに実験などが始まるのかも知れませんね。
僕も消極的賛成という立場です。> 田中山さん
僕も論文まで当たっていないので、記事で完全に否定的な立場を取ったことは、早とちりであったかと田中山さんのコメントを拝見して感じました。おっしゃるように治療法の選択範囲を感情論で狭めることは愚かなことだと思います。
これから研究が進むことでロボトミーによる疾患改善のプロセスが解明、または副作用を最小限にする方法が発見されれば、脳死のように法的に管理された条件を満たす患者等を対象にロボトミーを実施することについては賛成です。
そのためにロボトミーの再評価は非常に有意義なものだったと評価すべきですね。でも、現時点で実施するのは時期尚早ではないかと、門外漢ながら考えました。
> うーんさん
ロボトミー殺人事件に関して、ロボトミー殺人事件さんがフォローしてくださっています。
ロボトミーが感情的なところから発生したというのはどうでしょうか?
知識がないのでよくわからないところはありますが、精神疾患を持った患者に対して、脳をいじれば良くなる可能性を考えるのは、ある側面で当然とも云える発想だと思います。
倫理的には大きな問題を抱いている手術だとは思いますが、技術的に成立しさえすれば、非常に有効な方法かも知れませんし、研究が進められてから、考えるべき事項ではないかと思います。 もちろん人間に適用する前にですが。> ロボトミー殺人事件
フォローありがとうございます。
夕日の下りは印象的ですね。そう感じてしまったとき、自分という存在をどう思うのか。
考えるだけで背筋がぞっとしてしまいます。このような被害者を二度と出さないために、封印するのではなく、研究して洗練された方法へと昇華させるのがもっとも人間らしい方法なのではないかと考えられないでしょうか?
議論を通して感じたことは、やはり倫理的に大きな問題のある方法であること、技術的にまだまだ未発達であるが、客観的に見たときにその点をクリア出来る可能性が出てきたこと、ですね。
個人的には、将来的にロボトミーがひとつの治療法として成立する可能性は低いと感じています。 ですが、検討する価値がないとは言い切れない。
現在の脳科学分野で行われている動物実験の延長には、確実にロボトミーがあると云えそうですし、脳科学の発展が新しい知見を生み出したときに、ロボトミーが市民権を得る日が来る可能性もあるのかな? とか妄想しました。 でも脳をいじることに生理的嫌悪感があることは否めませんね。 それ自体が非常に興味深いことです。 - きき 08-04-29 (火) 1:11
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皆さんは自分自身が何らかの精神疾患にかかり、ロボトミー手術を勧められたらその手術をうけますか?
Trackbacks (Close):3
- trackback from 碧空の彼方 -Aozora- 05-08-09 (火) 22:55
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ロボトミー再評価って・・・
Orbium -そらのたま-さんのところで
ロボトミーについてのニュースが取り上げられていました。『ロボトミーを再評価する? まだまだ早すぎる技術ではないか…
- trackback from テンスウニッキ 05-08-15 (月) 15:23
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前部前頭葉切截 ― ロボトミーは”悪魔の手術”か【☆☆☆】
http://x51.org/x/05/08/1413.php 実はつい最近 http://medwave2.nikkeibp.co.jp/wcs/leaf?C...
- trackback from 俺は此処に居る 05-11-07 (月) 0:40
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